電柱さいこー!電線地中化の弊害
電線が地中化されているシンガポール
日本では東京オリンピックを前に、電線の地中化を含む都市再開発が話題です。
ここシンガポールでは、国が小さいのと建国の父の慧眼に恵まれて、都市計画の段階から国土のほぼ全てで電線が地中化されています。
シンガポールの町並みはとてもすっきりしています。逆にスッキリしすぎてのっぺりと街のにおいがないのを僕はやりすぎな気がしますが、多摩ニュータウンのような計画都市であるシンガポールにおいて、各地の街並みに特徴がないのは電柱が存在しても変わらないでしょう。
東南アジアでは一番街の景観がいい
僕はわりと景観とかそういうのに無頓着な方なので、実際移住してから指摘されるまで電柱がないことに気づかなかったほどです笑 彼女が髪切っても気付かないタイプ。
とはいえシンガポールの国策により、大通りには必ず街路樹が植えられ、それらが建国50周年を迎えたいま、立派な巨木に成長しています。
Garden Cityと例えられるシンガポールですが、そのガーデンたる所以は余裕のある大きな通りと、その両側にそびえる巨木の並木なのです。
もしここに電柱があったならば並木道をこんなに美しく整えることが難しくなりますし、また視界に電柱電線が入ることによって全く違った印象になってしまったでしょう。
建国当初からこの未来を予測し、都市計画を実践してきたシンガポール政府の先見の明には脱帽するばかりです。
大きな通りから外れると地下トンネルがない
じゃあ具体的に電線がどのように地中化されているかというと、道の両側の歩道の比較的浅い地下にトンネルが掘られているのです。
おそらくこの歩道の下のトンネルに、電気や電話線のようなケーブル類の全てが敷設されているものと考えられます。 シンガポールでは大きめの通りには必ず歩道がありますので、写真のように歩道に一定間隔で金属のフタが続いている場合は、それは地下トンネルへの工事用の穴なのです。
夕暮れから夜間などに、大きな工事車両とともにインド・バングラデシュ系の作業員たちが、この蓋を開けて中にケーブルを敷設している姿をよく見ます。
新しいケーブルが必要になったら歩道の蓋を開けて、その中につっこんでいけばよい。なんと合理的でシステマティックな都市設計でしょうか。
ぼくはシンガポールに移住して電線地中化の話を聞いたときに心底そう思っていました。
そう、我が家に光回線を引こうとするまでは。
インターネットを光回線にする時に工事が煩雑
おそらく何事も、メリットの裏にはデメリットが存在しているのでしょう。 電線地中化のデメリットは、例えばインターネットが遅いのでケーブルテレビから光回線に切り替えるときなどに起こります。
Kichijoji, Japan
先ほど言ったように歩道の上に一定間隔で空いている作業用の穴。これが地下トンネルがあるということを表しています。つまり逆にこの穴が存在しない道というのは、地下トンネルも存在しないのです。
新しいコンドミニアムや、計画的に作られた開発地区ではこんなことにいちいち悩まされる必要はなく、最初から地下トンネルが大通りから引き込まれています。
でも僕が住むリトルインディアの旧市街のように、再開発されていない昔ながらの区画では、この地下トンネルが存在しないため、新たなケーブルを引き込むのが非常に困難なのです。
僕が今住んでるシェアハウスのインターネットはみんなで使っていることもありとても遅く、夕方から深夜にかけて各人が家にいる状態では、そもそもネットに繋がらなくなってしまうほど回線が逼迫していました。
Cebu, Philippines
そこで大家さんにケーブルテレビから光回線に切り替えるようお願いをしました。このシンガポール人大家さんはとても良心的な人ですので、このような不便なことがあると驚くほど迅速に対応してくれます。
この時も費用がかかるにも関わらず光回線への切り替えを快諾してくれ、翌日にはプロバイダーに連絡を取ってくれました。
問題はここで発生しました。
プロバイダーの回答はこうです。
「 お住まいの地区は新規に光回線を通すことが困難です。もし通すならば建物全体の工事が必要です。これを行うには全世帯の光回線への加入が必要です。」
なにー!
我がシェアハウスは古い長屋の2・3階部分であり、1階には無関係の家族がなん世帯か暮らしています。大家さんが権利をもっているのは二階と三階部分のみなので、他の家族にもお金のかかる光回線への加入をお願いするのは困難です。
Bangkok, Thailand (Copyright © Yuuki Jessica)
このように電線地中化は、あらかじめ地中化するための設備が整っている地区では洗練された景観と便利さを与えますが、逆に旧市街では不便なこともあるのです。
結局インターネットが工事が完了し我が家に光回線が通るまで、なんと1年以上もかかりました。
これは単純に工事に要した時間だけではなく、手続きやお金をめぐる問題を解決するためにも必要な時間でした。
プロバイダーが要求する条件である、一棟丸ごとの光接続への移行を実現するため、大家さんは懸命に長屋のほかの住人にも光への加入を薦めてくれました。
そうしたことを考えれば1年という時間は必要だったと思いますが、仮に我が家の周りに地下道が仕込まれていたら即座に契約のみで光回線を引くことができたのです。
その間、ぼくはそれまでのケーブルテレビの回線がどのように我が家に引き込まれているのかを確かめました。壁にかなり雑にあけられた穴から外に出ているケーブルは、そのままプラスチックのパイプを伝い無造作に舗装された道路の下に潜っていました。
つまり地下トンネルが到達していない地区でも、何らかの形でケーブルを道路の下に埋めて、主線である最寄りの地下トンネルに合流させる必要があるようです。
そのやり方は半ば強引で、本当は水を通すための塩ビパイプのようなものさえも使い、舗装路のかなり浅いところに直に埋められています。大雨や大型車両が上を通ったらどうにかなってしまいそうなほど脆い有線接続。
1年以上かかって結果的に光回線に接続することができたわけですか、それは新たに地下トンネルが掘られたわけではなく、このような細いプラスチックのパイプを使った強引な浅い支線がうち伸びるまで整備されたに過ぎません。
つまり道路含めた根本的な地区再開発が行われるまでは、地下トンネルそのものを引き入れることはできず、強引な応急措置で対処するほかないようです。そしてそれにすら一年以上の時間がかかる。
電線って夕方には意外と趣あるし、効率重視の日本は無理して地中に埋めなくていいんじゃん?
そう考えると電柱というのは非常に分かりやすく便利なものだということに気づきます。 何しろその構造の全てが目に見えますし地上に全て出ているわけですから、新たに地面を掘り返したり地中に潜る必要もなく簡単にケーブルを増設することができます。
まぁもちろん電柱にも弊害があって、ベトナム、タイ、そして中国の地方都市などに行くと、まるで絡まった毛糸のように無造作にケーブルが増設されまくり、もう誰がどう見ても収拾がつかなくなってる光景、これでよく動いているものだと感心するような配線を見ることができます。うまく形容できませんが、それは電信柱の上に作られたカラスの巣のようです。
またはインドのように電線が露出してることによって、電気が途中で誰かに盗まれてしまったり、又はインターネット不正接続の温床になったりする可能性もあります。インドの電信柱から、明らかに不正に取り付けられた無線LANモデムが「生えていた」時には度肝を抜かれました。
要はどっちもどっちなのですが、ただ景観に良いというだけではない、中地中化のデメリットをまざまざと体験してしまった僕には、電柱もそんなに悪くないと思えるのです。
電柱は見栄えがしないと言われるわりに、夏の入道雲に映り込む電信柱や、夕暮れ時の電線のシルエットはなかなか趣があるものです。
もちろんそういった風景が昭和的で洗練された現代には似合わないことはわかります。ただ景観に悪いというだけで電線を取ってしまうと、日常的で具体的な不便も発生します。
今後東京オリンピックが近づくにつれ、日本の都市でも再開発が活発化することでしょう。その時には、電柱の地中化も行われるのでしょうが、一度こうしたデメリットも頭に入れておくと考え方が変わってくるかもしれません。
まとめ
- 電柱が地中化された町並みはすっきりしていて見栄えが良い
- 全国の電柱をくまなく地中化することは、たとえ国土の小さい裕福なシンガポールでさえ困難である
- 電柱地中化は完了してるところとそうでないところの差を生み、結果として新規のケーブルを敷く労力を増してしまう可能性がある