三連休にマレーシアのカジノリゾートへ行った話の第二回。第一回はこちらを御覧ください。
シンガポールで直行の長距離バスを逃しちゃって、代替便も用意されず、気合と根性でゲンティンを目指す俺たち。いったいどうなってしまうのか。
マレーシアはまだ昭和を大切に生きている
車窓風景などというオシャレな響きはマレーシアには通用しない。道の両側に延々と続く油ヤシのプランテーション。これが出発後から到着前まで延々と続く。我々がお風呂で使っているシャンプーの原料は、こんなプランテーションで作られたパーム油かもしれない。
ジョホールバル郊外から出発したバスは4時間ほどかかってクアラルンプールっぽいところに停車した。空港までの特急が見えるので都心に近いことはわかるが、あたりは更地が目立ち、建設を途中で放棄された幽霊ビルも視界に入る。到着したのはクアラルンプールの中心地から少し離れたバスターミナルだった。
マレーシアはどこもかしこも昭和の匂いがする。日本で映画『三丁目の夕日』がヒットしたのは、戻りたいけどすでに失われてしまった古き良き時代への懐かしみをうまくくすぐったからだ。一方でマレーシア人は昭和の空気が好きすぎてそこから平成に階段をのぼることを放棄しているようにすら感じる。
バスターミナルの屋根はトタンむき出し、壁はモルタル打ちっぱなし。券売機のたぐいは全台ぶっこわれていて、数少ないチケットカウンターに長蛇の列ができている。
ホントは、このターミナルからゲンティン行きのバスが出ていればいいのに、インフォメーションで尋ねるとKL Sentralまで行けとのこと。KL Sentralは東京で言えば丸の内のような、泣く子も黙る首都中心部。こんなふうに交通網の中心が確立されておらず、郊外に散逸しているのが「ああ、マレーシアだ」と思う。
クアラルンプール国際空港と都市中心部を結ぶ空港電車に一駅だけ揺られ、無事にKL Sentralに到着した。
行きずりの他人を信用するかどうか
この珍道中は軽くロールプレイングゲームの様相を呈してきた。手当たり次第に道端でグダグダしている人を捕まえては、次のヒントをもらうのだ。昨夜、国境のバスターミナルではいい加減なことを散々言われて右往左往したけど、それ以降はちゃんとした答えを教えてもらっている。
山へ登るバス乗り場を教えてもらったものの、3連休なこともありゲンティン行きのバスはとても混雑していた。大渋滞で2時間以上かかる上、21時の最終バスまですでに座席が埋まっているらしい。ここであと4時間も時間を潰すのはキツイ。
そう思っていたら、チケット売り場で偶然シンガポール人のおじちゃんに声をかけられて、タクシー相乗りを提案された。相方はちょっといぶかしがっていたけれど、夜の9時までバスターミナルでまたうろうろするのは精神的につらい。多分信用できそうだと判断したのでこの話に乗ることにした。
結果的にこの判断は大正解だった。
道路がありえないレベルで混んでいたのもあり、バスだったら日付が変わるまでにホテルに到達出来なかったかもしれない。
娯楽が少ないシンガポール
乗り合いタクシーをシェアしたシンガポール人のおじさんは、シンガポールのセントーサ島のカジノができた当初から15万円も支払って会員になったらしい。
経済のためにはカジノを誘致したいが、国民には触れさせたくない。どこの国もこう思うようで、シンガポールでは国籍保持者は一回入場料で$100払わなければならない。会員になると、これが一年間免除に成るのだそう。
つまりギャンブル行き放題。その後1年間で彼は1600万円もスッてしまってしまい、自らギャンブル依存症プログラムに登録して足を洗った。 これはギャンブル依存症の人を強制的にカジノから遠ざける政府の仕組みで、一度ここに名前を載せると次からシンガポール国内のカジノに入ることができなくなり、もし無理やり入ろうとした場合は逮捕される。実にシンガポールらしいソリューションだ。
そこまでしたにもかかわらず、やはりギャンブル癖が抜けないらしく、わざわざはるばるバスに乗ってお隣の国のカジノに通う有様である。
道中は山の上にあるキャバクラの女の子と連絡を取り合っていた。定期的に通っていることうかがわせる。
確かにシンガポールは娯楽が少ない。 おじさん趣味のゴルフやクルマやオンナはとてもお金がかかるし、そもそも趣味を持たないシンガポール人が退職後にカジノにハマって年金をいっぺんにスッてしまい路頭に迷うという話も納得できる。
彼もその1人なのかもしれない。 昔は日系の企業に何十年も務めていたらしい。スッてしまったとは言え1600万円以上自由に使えるお金ができていたのはすごいことだと思う。
昭和のテーマパーク、ゲンティン・ハイランドに到着
乗り合いタクシーはかなりきつい山道をかっ飛ばして、ついに山頂のカジノリゾートへ到着した。山道の後半はサルや野犬が現れたり、濃霧で視界が真っ白になったりといろいろあった。
もっと鄙びた温泉街のようなところ想像していたのだけれど、裏腹にバブル趣味なリゾートホテルであった。広々としたホテルのロビーはまるでボルネオのジャングルのような装飾が施されて、いろんな動物が天井からぶら下がっている。 まぁそれでいてミロのヴィーナスのような古代ギリシャ風の石像もあちらこちらに配置されていて、 がんばってゴージャス感を出したいと思う熱意が伝わってくるけれど全力で空回りしているのがいかにもバブルな雰囲気である。
ゲンティン・ハイランドについての詳細は次回にまわすとして、バスを乗り過ごして気合と根性でここまでたどり着くのに結局24時間かかった。