日本人が長いこと海外にいると寿司やラーメンが恋しくなるように、シンガポール人の心に染み込んでいるのがホーカーご飯の味。
ホーカーセンターは500円も出せば海南チキンライスからスパゲッティ、日本食までなんでも食べられる屋台街だ。シンガポールの街の至る所にあって、日本であればファミレスや牛丼屋で済ますような食事はホーカーで食べる。
夫婦共働きが普通のシンガポールでは日常的に自炊しない家庭も多いらしく、ホーカーご飯がお袋の味という友人も多い。
ホーカーじゃなくフードコートという言葉を使うようになってきた
目を見張る速度で都市開発が進んでいるシンガポールでは、最近古いホーカーセンターの改修工事が盛んに行われている。
ある日突然、伝統的なホーカーセンターが閉鎖されたかと思うと、1ヶ月後には超絶キレイになってリニューアルオープン。
そして改修後はフードコートと呼ばれるようになる。
当時住んでいたLavenderのホーカーセンターが閉鎖された時は、よそ者ながら寂しい気分になった。地元のオバちゃん二人組が切り盛りする美味しい福建麺の店があったのに。HDB(公団住宅)を外国人に貸している大家でもあるオバちゃん達からは、シンガポールの不動産事情を沢山(ときにうっとおしいほどに)教えてもらった。
リニューアルした後は、おそらく賃料が上がる関係でこうした個人経営の小さな店は撤退してしまう。かわりに入るのは、どこにでもあるチェーン経営の店だ。
店員さんとのこうしたふれあいも、リニューアル後はなくなる。
綺麗になるならいいじゃん…?
5年前にバックパッカーとして初めてシンガポールを訪れた際に、シンガポール友人が夕食に連れて行ってくれたことがある。
「これがホーカーセンターか!ガイドブックに書いてあったよ」。まだ何もかも珍しくキョロキョロしていた僕に彼は「これはフードコートかな。違いはよくわからないけど…ホーカーはもっと…古いところさ。」と説明してくれた。
そう、伝統的なホーカーセンターは正直、ちょっとこ汚い印象かもしれない。
綺麗になるなら衛生面でも改装は喜ばしいことかもしれないけど、僕が思うに個人店が減ることで料理の腕が必要無い「マニュアルで作れる盛るだけ料理」が増える傾向にある。
現在このカレーやラーメンを売っている場所は、改装前は四川省からの移民一世二世の親子が営む本格中華料理の屋台だった。彼らは改修工事が決定した瞬間に賃上げを嫌って店を畳んでしまった。
伝統の味が失われていないか。。。
シンガポールは歴史が浅い国のように言われることがあるけれど、独自の文化と伝統がちゃんとある。ホーカーの味にしても、路線バスですぐ行けるマレーシア領ジョホールバルとは違う。
その伝統の味が改装工事によって急速に失われているように感じる。
もうひとつ寂しいと思うのは、ホーカーの仕事がシンガポール人に人気がない移民労働者の仕事になりつつあることだ。
シンガポール建国からの料理人が高齢化や後継者問題、尋常じゃない賃上げで店をたたみ、チェーン経営のマニュアル料理屋に置き換わっている。チェーン店が雇うのはマニュアルで働く給料の安い人材だ。
マニュアルで盛るだけ料理をつくるのが仕事なら、調理師として腕を磨きキャリアを積んでいく・店を大きく有名にしていくという意識でホーカーで働くのは難しい。
「シンガポール料理をつくるシンガポール人のシェフ」が減っていくのは、寂しいと思う。
まとめ
シンガポールがグローバル化の波に乗って発展し続ける影で、伝統の味が徐々に失われている。