シンガポールには高級車の自動販売機がある

シンガポール生活

飛行機、船、電車、バスなどなど、子供の頃はいつか運転してみたいと思ったものだ。小さな男の子(および一部の女の子)ってのはなんであんな杓子定規にデカい乗り物に興味を持つのだろうね。

とはいえ現実ってのは退屈なもので、大人になって実際に運転できるのはクルマかバイク程度なものだ。しかも、子供時代は輝かしい未来のように見えたクルマは、21世紀ではタダの移動手段に成り下がってしまった。

プログラム制御の電気自動車がチヤホヤされる上、華麗なクラッチワークで首都高を駆け抜けスピードの限界に挑戦するなんてのは、違法かつ迷惑でオタクじみた趣味になってしまった。虚しいね。この感覚は子供の頃泣き叫んでまでやりたかったテレビゲームが、大人になると暇つぶしにもならない虚しさと似ている。

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昭和のカッコよさをプロデュース

テレビはYoutubeでいいし、腕時計はスマホでいいし、自家用車はUberでいい。そんな平成の世で経済を廻していくには、昭和的価値観をふたたびプロデュースしていく必要がある。

現代人の心の奥底でくすぶる、少年時代の消化不良な渇望をくすぐって、大枚はたいてクルマに乗る欲望を再び掻き立てられないだろうか。シンガポールが出した1つのソリューションがこれである。

フェラーリの自動販売機

シンガポールには高級車専門の自動販売機がある。ビル1つがまるまるガラス張りの立体駐車場になっていて、地上階にあるタッチパネルで必要な手続きをすると、即座にお目当ての高級車がベルトコンベアで運ばれてくるという。

こんな奇抜な方法でクルマを売るAutobahn Motersは、フェラーリやマセラティのようなスポーツカーからクラシックカーまでを取り扱う高級車専門のプレミアム・カー・ディーラーだ。

もはや移動手段以上の価値を無理矢理にでも付加しないと、マンション並に値が張る高級車をわざわざ手に入れたいという動機が生まれない。その動機とは、ズバリ優越感だ。人が持ていないクルマを所持している自己満足。それを満たすための自慢と賞賛。

優越感を演出するためにはただクルマを買うだけじゃなく、その購入過程にも注目されるポイントが必要だ。このあたり、シンガポールの商売は本当にうまい。数千万円の高級車を自動販売機で売るというコンセプトを押し出せば、SNSであっという間に世界的な話題になるだろう。そうすれば、有名なアノ店で買ったという話題性以上に、「高級車を自販機で衝動買いできる俺」のようなキアスな自尊心まで満たせる。

シンガポール人気質「キアス」
日本でいう「本音と建前」みたいな国民性をあらわす言葉がシンガポールにもある。それが「キアス」。福建語由来の言葉らしく漢字で書くと驚輸、英語だとKIASUで、Wikipediaにも項目がある。「負け組に堕ちる恐怖心」と解説されるキアスだけど、僕の感覚だとこんな感じ。 まわりを出し抜いて勝ちたい まわりを出し抜いて得したい...

所有から使用へ

確かに高級車の自販機とは、僕も思わず取材に行くほどセンセーショナルだった。とはいえ、ここまで付加価値をつけないと、もはやクルマは売れないのだという現実を象徴しているようにも見える。

フリマアプリが日本でも流行しているように、必要な時に必要なものを手軽にゲットして、要らなくなればストレスなく手放すのが現代の大衆的価値観。所有している物質によって担保されるような安易な自尊心は、今後どんどんカッコ悪くなり衰えていくだろう。

そういう意味で、高級車の自販機は「所有から使用へ」という時代の流れに強烈に反抗している。天才的なシンガポールのマーケティングによる、昭和的物質主義の再プロデュースには今後も注目だ。

 

Autobahn Motors

20 JALAN KILANG SINGAPORE

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