世界でも圧倒的に安全な国、シンガポール。この国で暮らす上で一番のリスクは交通事故だ。
居住者の3人に1人が外国人であるシンガポールでは、日本とは比べ物にならないほど外国人がたくさん運転している。例えば、バスの運転手はほとんど外国人労働者が担っている。
もちろん、みんな合法的にシンガポールの免許を取得して運転しているのだけど、やっぱり運転マナーには民族の気質が色濃く出る。スキー場にスノボが参入して衝突事故が増えたように、違う動きをする乗り物が同じ道を走るのは根本的に危ないと思う。
でもそれとは別に、シンガポールの人たちの気質が、そもそも交通マナーの低下につながっていると思う。今日はシンガポールの交通マナーについて書く。
キアス走法
信号の解釈ってこれが世界標準でしょう。
●すすめ ●止まれ ●絶対止まれ
ところがシンガポールの実際の道路事情ではこうだ。
●急げ ●めっちゃ急げ ●お前の負けだ
シンガポールの国策で、タクシー運転手はシンガポール国籍保持者でないと就くことができない規制産業だ。守らなければいけない憧れの職業とは思えないんだけど、「 シンガポール人が食いっぱぐれたらタクシー運転手」というある種の経済的セーフティネットとして機能している。
彼らの給料は歩合制なので、お客を効率的にたくさん乗せた方が儲かる。最近は需要がある時間帯だけレンタカーで営業するUberとの競争も激化している。
タクシー業界はそんなレッドオーシャンだから、赤信号で千切られて取り残されるのを「負け」と感じるらしい。目の前の信号が黄色になるとむしろアクセルを踏んでいくドライバーが多すぎる。名古屋走りもびっくりだ。危険すぎる。
そして結局は見切りが甘くて赤信号に捕まる。この時の急ブレーキが本当に怖いし酔う。まぁシンガポールのタクシーは安心安全のヒュンダイ製だし大丈夫だろうけどね笑
そして青になった途端のベタ踏みスタートダッシュ。この時、隣のクルマが自分よりも先に飛び出していくのにも「負け」を感じるらしい。だからまだ赤なのにクリープでジリジリと前に出ていく車もある。危ない。
シンガポール人の気質を表す言葉として「キアス」がある。キアスは「負け組に堕ちるのを恐れるメンタリティ」と説明される。ここから、僕は赤信号で千切られるのを異常に嫌う運転を「キアス走り」と呼んでいる。

センターラインは参考程度
シンガポールの道路でセンターラインは「参考程度」だ。スキあらば車線変更するので真っ直ぐ長く走ることがない。それどころか、後続車に「割り込む意志」を威圧的に伝えるために、わざとセンターラインを跨いで「VIP走行」するクルマもたくさんある。
結果として各車の走行ラインがクロスしまくるのが普通。この様な、ちょこまか車線変更して1台でも抜こうとする運転を「マリオカート走り」と呼んでいる。
こんな頭文字Dもビックリ運転で、よく事故らないものだと感心していたのだけど。
実際事故ってるのね
3年ほど前に、在星中国人の友達がジョギング中にクルマに轢かれて意識不明になった。僕は事故の一報を受けて、私立病院のICUに駆けつけた。頭がパックンフラワー状態で、頭蓋骨をチタン合金でまるごと置き換える脳外科手術を受けた。奇跡的に意識が戻ったものの、彼女は今も後遺症に苦しんでいる。
彼女を見舞って何度もICUに行ったんだけど、ほぼ毎回血まみれで救急搬送されてくる負傷者をみた。ヤクザの抗争かって感じ。シンガポールにヤクザはいないので彼らは事故った人たちなんだね。
僕はスケボーで走り回っているので交通事故は他人事じゃない。この記事でシンガポールの交通マナーについて警告するとともに、自戒としたい。